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私には心の中に忘れられない試合がある。一生忘れられない試合。
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VSミラン戦チケット |
2000年9月19日、チャンピオンズ・リーグ1次リーグ。リーズ・ユナイテッド
vs ACミラン─。
その試合、スタジアムはもの凄い暴風と豪雨に見舞われた。その男の右足から放たれたボールは、あまりにも弱々しく、到底ゴールインは不可能な軌道を描き、ACミランへのゴールへ向かった。しかしそのボールには、その男、そして我々の"気持ち"と"勝利への執念"が宿っていた。そうとしか言いようがない。
おそらく近代サッカーで"気合い"という言葉は卓越した戦術、洗練された個人技のあとの、ほんの僅かな"スパイス"として考えられている。確かに一昔前の元祖イングランド・タイプとでも言おうか、ファイター・タイプの選手はここイングランドでも活躍の場がなくなってきていることは、事実かもしれない。しかし、もしそうならば、彼がその生き残りの一人。
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ボイヤー吠える!
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リー・ボイヤー。我がリーズ・ユナイテッドの心臓。いわゆるダイナモと呼ばれる運動量だけではない。その熱い熱いプレーがリーズサポーターの心をさらに熱くさせ、その試合に、この上ない"スパイス"を注入してくれる。それは華麗な、そして美しいサッカーだけでは感じることの出来ない、極上のスパイスをその試合に注入してくれるのである。まさにリーズのモルト・ビネガー。ONE
& ONLYなのである。(FISH&CHIPSを食べたことがない人は分からん!?)
あの頃、リーズ・ユナイテッドはチャンピオンズ・リーグという大きな、華やかな舞台にいた。世界的にも名の知れた有名チームとの試合。いやが上にも盛り上がるスタジアム。そしてその注目度。しかしその時、ボイヤーはイングランド北部の町、HULL
Cityと、エルランドロードの往復を余儀なくされていた。
リーズ市内で深夜に起こったアジア人学生への暴行事件への関与の疑い。この容疑に関する裁判が行われたHULL
Cityからスタジアムまでの道のりの2時間半の間に、彼は一体何を考え、そして、どうやってその気持ちを切り替えていったのだろう。"裁判"というどん底のような悪夢から、一変して華やかな舞台への登場。自分が蒔いた種とはいえ、そこには本人にしか分からない苦しさがあったに違いない。
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雨中の大激戦─VSミラン戦
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しかし、あの頃の彼の活躍は、まるでその悪夢を振り払うかのような、何かに取り付かれているかのようなプレーであり、凄まじいものがあった。その年の"Player
of the Year"に選ばれた彼であるが、誰の文句もない満場一致の結果だった。
時は流れて、'02~'03シーズン開幕。あのリーズサポーターに愛され続けていた男は、ブーイングの中で開幕戦を向かえることになる。それはシーズン前の移籍騒動のゴタゴタが影響していたのはおそらく事実である。前述の裁判で無罪の判決を勝ち取った彼であるが、皮肉にもチームとの亀裂はその直後から大きくなっていった。
判決は無罪だったにも関わらず、チーム側からは、その場に居合わせたこと自体がプロ選手としての自己管理の無さとして、罰金と社会奉仕活動をボイヤーに課したのである。(実際あの事件が起きたのは深夜であり、チーム側から選手達に言い伝えている門限は過ぎていたのである。)
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ボイヤー、苦悩・・・
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それに反発したのがボイヤー。"無罪なのになぜまだそんなに俺を苦しめる・・・。" ボイヤーは裁判のせいで精神的に追い詰められた状態でのプレーを余儀なくされた上、その期間中のイングランド代表の試合を見送られ、W杯にも行けなかった。そんな状況からやっと抜け出せたと思った矢先の、このチームからの言い渡しに我慢できなかったのだろう。
契約延長のサインに応じなかったのはそんな時であった。しかも売り言葉に買い言葉ではないが、ボイヤーがサインしなかったことに対して、会長のピーター・リズデイルが、"ボイヤーはチームへの恩を忘れたのか!?
裁判中はあんなにサポートしてやったじゃないか!ボイヤーに契約拒否の余地はない!"と言ってしまったから大変。その後の話し合いは平行線を辿るいっぽうであった。
結果的にはチーム残留を果たしたわけであるが、なんともすっきりしない形で開幕戦を迎えることになってしまったのである。そんな思いが一部サポーター達のブーイングというかたちを取らせてしまったのだ。
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ボイヤーにらむ!
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しかし私は断言できる。このサポーター達のブーイングは心の底からのものではないと。実はリーズサポーターの一番人気は彼といっても過言ではない。スタジアムに足を運んだことのある方なら分かると思うが、試合中のリーズサポーターからの声援は、彼へのものが一番大きく、また回数も多い。試合の後も彼だけは一番最後にピッチを去ることがお決まりになっており、毎試合、最後の声援は皆揃っての、"Bowyer
for England!(イングランド代表にボイヤーを!)"の大合唱なのである。
サポーターからのこのブーイングには、"やんちゃ坊主がまた騒動を起こしやがって、ダメじゃないか"という親心を私は感じた。その証拠に彼の試合中の活躍には昨シーズンまでと同様に大きな拍手が沸き起こり、試合後にはこれまた同様に、"Bowyer
for England!の大合唱だったのである。
'96年6月にチャールトンより移籍金£2.6Million(約5億円)でリーズへ移籍してきた彼。当時19歳。ウイルキンソン、ジョージ・グラハム、オレアリー監督のもとでのプレーを重ね、彼の現在のプレースタイルを確立させていった。幾度の怪我にも悩まされはしたが、コンスタントに出場試合数を延ばし、98年シーズンあたりからはすっかりとレギュラーの確保に成功。その豊富な運動量を武器に、激しいファイティング・スピリッツは、時には行き過ぎの面もあるが、今ではすっかりリーズの代名詞となっていると言っても過言ではない。
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若かりし日のボイヤー
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彼がリーズにやってきた当時、周囲の期待は彼のその攻撃力にあった。中盤の運動量を活かしながら、ロングラニングによる前線への飛び出しが彼の特徴であった。しかし、リーズではまた違う一面の強化を施されることになる。ジョージ・グラハム監督時には、もっとオールラウンド的なポジションを任されるようになったのである。前線への飛び出しだけではなく、DF面での貢献。中盤でのプレスへの貢献。様々な要求を無難に、そして期待以上の活躍で成し遂げてくれるのが、この男、ボイヤーである。
私が初めてエルランドロードで彼のプレーを観た時、私には一人のオランダ人プレーヤーのことが脳裏に浮かんだ。エドガー・ダービッツである。ダービッツのプレーを初めて目の前で見たのは、'95年のトヨタカップだった。その当時、ファンファール監督(現バルセロナ監督)のもと、あまりにも洗練されたシステマチックなサッカーをすることで、強烈なインパクトを世界中に与えたオランダのアヤックス。そのインパクトは、あまりにも破壊力抜群のFW陣によって生み出されていたのは事実である。
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| 中盤の番犬、ダービッツ(右) |
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クライファート、カヌー、フィニディ・ジョージ、オーフェルマルス、リトマネン達の攻撃力は凄まじく、ダイレクトパスと個人力の突破によって相手DFを切り崩す様は、当時、一台旋風を巻き起こしたのである。
しかし私はその試合で、彼らよりもダービッツのプレーに度肝を抜かれた。当時、"フィールドの番犬"の異名をとっていた彼であるが、その名のとおり、まさに神出鬼没。一度マークした相手はボールを取るまで離さず、食い付くように食い下がり、ボールを奪えば、あの独特の長髪をなびかせて前線にボールを運び、FWにボールを繋ぐ。そして自分もどんどん前に飛び出していくという運動量に、私の目は釘付けになった。そして、"こういうMFがいればチームは楽だろうなぁ。これからのMFはこうなっていくんじゃないかなぁ。"という思いを抱かせてくれたことを今でも思い出すことができる。
"The Running Man─"
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The
Running Man─
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人はボイヤーをこう呼ぶ。その休むことのない動きと、尽きることのないスタミナ。負けることが大嫌いな彼の性格は、相手との1対1の局面で容易に見てとれる。とにかく相手がボールを放すまで追いかけまくり、取れなければ相手ごとなぎ倒す。あのTOYOTA・CUPでダービッツから得た衝撃を、4年後、私はエルランドロード・スタジアムで再び得るとができたのである。
私はサッカーをアマチュアながら約20年以上やっているが、過去を振り返ると、"こいつとはずっとサッカーを一緒にやっていたい"、"こいつのためなら頑張れる。一緒に戦いたい"と思わせる男がいる。今、私はその思いをボイヤーに抱いている。そう思わせるものが彼にはある。
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The
Moment─
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あの試合、彼がはなったあのシュート。期待するほうがおかしいほどの、弱々しいあのシュートに、なぜ私はあれ程までゴールへの期待感を抱くことができたのであろう。いや、期待感を募らせたのは私だけでは無かったのではないだろうか。だからあのシュートは奇跡としか言いようが無い、100万回に1回程のキーパーのミスを引き起こし、ゴールへと吸い込まれていったに違いない。
奇跡への期待感を感じさせずにはいられないものがこの男には宿っている。
リー・ボイヤー。彼がそこにいる限り、我々の魂は一つになる。
"Bowyer
for England!"
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ONE &
ONLY!! BOWYER!!
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